ビジネスの現場にAI活用の波が押し寄せる。システム開発も例外ではない。米国では既に「8~15倍」もの生産性向上を実現するAIソリューションが日本に上陸した。インパクトは他の業務領域をはるかに凌ぐ。「AIエージェントが1人のメンバーとして活躍するようになる。システムの開発コストは大幅に下がり、スピードは劇的に上がる」と話すのは、ウルシステムズでテクノロジー本部を統括する取締役副社長の桜井賢一氏だ。

AIエージェントがエンジニアに 自律的にプログラムを組む

先進企業の次世代ビジネスを支援するULSグループ。その中核企業であるウルシステムズは、「攻めのIT」に特化したITコンサルティングファームだ。経営陣は全員技術畑出身。「ビジネス戦略やデジタル戦略、業務改革といった、いわゆる上流から、実際のソフトウエア開発まで担うのが我々の使命です。強みは技術力。そこは他のコンサルティング会社と一線を画すると考えています」と桜井氏は説明する。

ウルシステムズ取締役副社長 桜井賢一氏
ウルシステムズ取締役副社長 桜井賢一氏

今日の企業経営においてデジタル・ITの活用は不可欠だ。一方で、それらを支えるエンジニアの数は危機的に不足している。「2030年までに最大79万人のIT人材が不足する」といった経産省の試算結果を耳にしたことがある読者も多いだろう。

「大企業の基幹業務システムに代表される大規模開発では多くのエンジニアが必要となります。一方で、必要な人材を確保するのは容易ではありません。優秀な人材を巡る争奪戦は熾烈さを増すばかり。開発の外注コストも高騰しています。人材不足を理由としてプロジェクトをスタートできない、という状況すら発生しています」(桜井氏)

こうした状況に解決の糸口を示したのが「AIエージェントをエンジニアとして活用する」という選択肢だ。これが今後のビジネスの鍵にもなるという。

「特にAI活用のインパクトが見込めるのは実装工程です。一般的にシステム開発は要件定義、設計、実装、テスト、移行といった工程からなります。このうち実装は大量の人員と時間を必要とする工程です。AIエージェントをうまく活用できればコストを削減し、システム導入に要する期間も短縮できます」

自律型AIエンジニア「Devin」がもたらす新しいシステム開発像

ウルシステムズは、2025年5月に米国Cognition AI社とのパートナーシップ締結を発表した。Cognition AIの自律型AIエンジニア「Devin」を国内エンタープライズ市場向けに展開し、大規模開発プロジェクトへのAI導入に関するプロフェッショナルサービスを提供している。ウルシステムズは、どのような経緯でDevinに注目し、パートナーシップ締結に至ったのだろうか。

桜井氏がDevinの存在を知ったのは2024年夏頃のことだ。さまざまなAI開発ツールを試していたところ、情報収集のアンテナに引っかかったという。サービスが利用可能になると、すぐさま技術チームに検証を指示した。「Devinは頭ひとつ抜き出ている」というレポートが上がってくるまでそう時間は掛からなかった。「実現には10年掛かるのでは」と想像していたことが、既に形になっているのを見て桜井氏は非常に驚いたという。新技術に理解のある顧客に提案し、業界に先駆けて2025年1月に実際のプロジェクトで利用を開始した。

「開発現場で使っていく中で、これは本物だという実感を得ました。その後、Cognition AI社のメンバーと会話する機会があり、Devinの開発思想にも共感しました。それで本格的にDevinを広めていくことを決意したのです。まだまだ新しいサービスなので、国内では感度の高いエンジニアが使っている段階です。しかし、Devinは大企業のIT投資をガラリと変えるだけの力を持っています。長年にわたって大企業の業務システムに携わり、その課題を知り尽くしているからこそDevinのインパクトも分かる。私達はDevinで業界全体を変えていきたい。それが今回のパートナーシップの狙いです」(桜井氏)

Devinの特徴は「人間のエンジニアと同じように仕事を任せられる」点にある。コミュニケーションは基本的にチャットだ。同僚に話しかけるのと同様に日本語で指示を出せば自分で段取りを考えて作業を始める。プログラミングはもちろん動作のチェックやバグの修正まで自分で実行できる。既存システムの調査や設計書の修正などのタスクもこなす。

開発スピードも圧倒的だ。人間の場合、指示を受けてから内容を咀嚼したり、段取りを考えたりするのに一定の時間が掛かる。複雑なプログラムであれば数日間かかることもある。作業が滞ることもある。ところがDevinにかかれば数十分で作業が完了してしまう。

Devinが自動的に実行できる作業の例
Devinが自動的に実行できる作業の例

Devinを使えば極めて短い時間で高品質のプログラムを作れる。これはビジネスに大きな影響を与えると桜井氏は話す。「新しいビジネスを始めようとしても、システムが足かせになることはよくあります。事業部は来月には新しいサービスを発表したい。でもシステムの完成まで待たなければならない。Devinで劇的に開発スピードを速くできれば、こうしたロスはなくなります。それは企業の競争優位性を高めることにほかなりません」

レガシーシステムを作り直す場合にもDevinは有効だ。「システム開発に用いる技術は時代とともに移り変わります。システムの拡張性を確保したり、エンジニアを確保したりするためには定期的に新しい技術で作り直すのが理想です。とはいえ、システムを作り直すには莫大な手間とコストがかかるので塩漬け状態にしてしまう。そうしたシステムがやがてDXをはじめとするビジネス変革の足かせとなるのです。Devinを活用すればブラックボックス化したシステムの仕様をひもとく負担を大幅に軽減できます。システムを作り直す手間とコストも抑えられます。再構築のハードルは確実に下がります」(桜井氏)

Devinの導入支援からコンサルティングまでを一手に

ウルシステムズは今後、Devinの導入支援はもちろん、AIエージェントを使った開発のコンサルティングサービスも行っていくという。顧客が抱えるさまざまな課題をDevinがどう解決できるかを丁寧に検証し、導入効果を客観的に提示する。

「多くの企業にとってAIエージェントは未知の存在です。関心はあるものの、不明な点や不安な点も多い。それが実情でしょう。まずはお客様の理解が得られるようステップを踏むことが大切だと考えています。ひとたびDevinの導入を決定した後は、Devinをお客様のルールや環境に最適化させるとともに、お客様がDevinを使いこなすためのレクチャーをします。Devinへのインプットを作る要件定義や設計の工程には、コンサルティングチームが伴走します。Devinの活用を前提としたIT戦略の見直しも支援します」

ウルシステムズのコンサルティングアプローチ
ウルシステムズのコンサルティングアプローチ

実際のDevin導入企業は、どのような効果を実感しているのか。「今年4月から支援しているプロジェクトでは現時点で2〜3倍の生産性向上を得ています。もちろんこれは序の口です。Devinのパフォーマンスを最大化するためには仕事の進め方を変える必要があります。今はまさにその道のりを伴走している段階です。米国の導入企業では8〜15倍の生産性向上を実現しており、国内企業でも同様の数字を十分に実現可能です」(桜井氏)

Devinの導入効果に関して自信を覗かせるのは、ウルシステムズ自身も開発プロジェクトでDevinを用いているからだ。「Devinの生産性には目を見張るものがあります。当社はシステム開発も手掛けていますが、リソースに限界もあるため、超大規模なシステム開発をお引き受けすることは難しかった。Devinによって状況は変わりました。人間とDevinが協働することで、超大規模システムであっても構築可能になったのです」(桜井氏)

Devin活用のユースケース例
Devin活用のユースケース例。これらの難解な作業がDevinでは人力の数倍のスピードで完了できる

AIエージェントを活用した開発を広めていくことで、日本企業のIT投資を変革したいと考えるウルシステムズ。桜井氏は次のように話す。「システム開発の世界では人月に対してお金を支払うのが常識になっています。システムを作るのにどれだけ時間が掛かったかを測るわけです。本来はそのシステムがどれだけの価値を生み出すかに注目すべきでしょう。そこに対価が支払われるべきだと思います。Devinの登場によってシステムの実装にかかる時間とコストは大幅に圧縮されます。システム開発が人月から解放され、価値にフォーカスした会話ができることこそ、我々の使命だと思っています」

最後に桜井氏は今こそ、開発現場へのAIエージェント導入を検討すべきと強調した。「クラウドの登場でIT業界は大きな変革を迎えました。Devinに代表されるAIエージェントはさらに大きな変革を引き起こすと思っています。開発にAIエージェントを活用するか否かはビジネスの競争力を左右する決断になるでしょう。日本企業はためらわずにAIエージェントを活用してほしい。当社はそのお手伝いをしていきます」