
生産性を上げるIT活用術
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「データウエアハウス」を現場の意志決定に活用 第3回
| 第3回ポイント | |
| 1 | データウエアハウスは「情報の倉庫」。裏付けのある意志決定をする上で役に立つ。米ウォルマート・ストアーズなどが率先して活用に取り組んできた。 |
| 2 | POSデータといった定量情報の蓄積だけでは不十分である。店舗における売り方や催事情報なども取り入れた「定性情報」の組み合わせが必要だ。 |
| 3 | データはためるだけでは意味がない。現場が簡単に使えるシステムを最初から考えるべきだ。日々の意志決定に役立ててこそ、データウエアハウスは意味を持つ。 |
「データウエアハウス」という言葉をご存じでしょうか?直訳すると「データの倉庫」です。様々な形で社内に分散している顧客の購買履歴や、販売データ、在庫などの必要な情報を一元的に集めるデータの倉庫を作り、経営や店舗運営における意志決定に利用できるようにしたものです。
データウエアハウスの活用で、先進的と言われているのが、米ウォルマート・ストアーズです。1990年代から開発を進め、200テラ(200兆)バイト以上という膨大なデータを扱えるシステムを作り上げました。
このシステムでは誰がいつ、何を買ったかという顧客の購買履歴や商品データ、在庫データなどを過去2年分蓄積しています。ウォルマートがデータウエアハウスを使った分析から、一見全く無関係に見える、「おむつを購入する消費者は同時にビールも購入する」という関係を発見したというエピソードはあまりにも有名で、もはや伝説になりつつあります。
しかし、データウエアハウスに対しては、誤解が多いのも事実です。最たるものは「POSデータを集めればデータウエアハウスになる」という、安直な考えでしょう。
「POSだけでは役にたたない数値化できないデータが重要
データウエアハウスは、単純なPOSデータの分析ツールというだけの位置付けのシステムではありません。本当のデータウエアハウスは、どうしたいか、という意志決定に役立つための情報が、ポンと出てこなくてはいけません。これは、POS中心主義ではできないことなのです。
POSで分かるのは、何がいつ、いくつ売れたかということだけです。それ以上のものではありません。POSデータは売れたものについては分かりますが、「なぜ売れたのか」あるいは「なぜ売れなかったのか」といった理由を判断するには、情報として不十分なのです。
これまで申し上げてきたように、私はこれからのスーパーは、個店化の流れが避けられない、と考えています。お店のある地域に合わせた品揃えや売り方を実現する上で、重要なのは「数値化できないデータ」なのです。例えば、商圏内の学校は、いつからいつまでが夏休みなのか、遠足は何月何日か、そのときの天気予報と実際はどう違ったのか―。こうした文章によるデータが重要です。
さらに商品の売り込みはエンドや平台など、店内のどこで販売したのか、そのときの天気はどうだったか、POPやノボリの設置など、どのような販促を試みたのか。「あの時はこういう形で売り込んだ」という記録がなければ、意志決定の基準になりにくいのです。
今まで、これらの情報を統合して判断するのは、店長など個人の能力に頼ってきました。確かに能力のある店長であれば、情報システムがなくてもできることです。
しかし、チェーンとして考えたときに、それでは問題があります。転勤によって店長が変わると、ノウハウも一緒に流出してしまうからです。情報システム化で、共有すべき情報は共有し、簡単に取り出せるようにする。こうした「ナレッジマネジメント」の視点が重要になっているのです。

定性情報の扱いにも可能性が現場主導のシステム構築を
実は定性情報というのは、コンピューターが苦手とする情報です。コンピューターは数値の計算は得意ですが、「意味」を理解することはできないからです。しかし、技術も進歩しており、最新のデータベース技術では、例えば「山へ行った小学校の遠足で売れた商品」などの文章で、データウエアハウスを検索して該当するデータを表示させる、といった定性情報を扱うための研究が進んでいます。
カスミでも実験として取り組んでみたことがあります。まだ技術的な課題はあるものの、「店舗の特性を考えると、この商品は全店の平均的な動きよりも3日早く動き出す」「発注数量が多めでも売り切れる」といった意志決定する際の裏付けとして役立てることができるようになり、これから有望な技術であると感じました。
重要なのは、データウエアハウスもまた、現場の社員が利用するために存在する、ということです。データを本部がため込んで満足しまうのではなく、現場が頻繁に利用するものであってこそ意味があります。
どうしても「店舗の情報を一元的に収集し、分析できるようにする」データウエアハウスの性格上、プロジェクトは本部主導で進んでしまいがちです。
しかし、データウエアハウスが何のためにあるかと言えば、それは現場の社員のためなのです。ウォルマートの情報システムも、取引先を含めて、現場の社員が自ら分析し、意志決定できるようにした分散型のシステムです。
現場からの視点は、あらゆる情報システムに不可欠なものになってきていきますが、現場経験のない情報システム部門と、取引先であるシステム構築業者だけでデータウエアハウスを作ると、費用ばかりかかって「現場が使えないシステム」になってしまうことが多いのです。
そうならないためには、データウエアハウスを構築する際に現場からの積極的な参画が必要になってきます。構築プロジェクトの音頭は、販売推進部長やスーパーバイザーなどが取ることを勧めます。


ポイント乱発は効果薄CRMは品揃えに活用 第4回
| 第4回ポイント | |
| 1 | CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)は「お客様との関係をマネジメントすること」。いかに「ひいき客」になってもらい、店を長期間利用してもらうか。そのための経営手法である。 |
| 2 | ポイントカードやクーポンの発行だけでは、単なる値引きにとどまってしまい、本当のCRMにはつながらない。 |
| 3 | CRMはお客様の情報をいかに集め、個店が分析できる仕組みを作るかが、成否のカギを握る。顧客の購買データやお客様相談室に寄せられた声の蓄積の中から、消費者が満足する品揃えを実現するマーチャンダイジングの仕組みを作ることが重要。 |
今回は小売業にとってのCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)についてお話しましょう。CRMを日本語に訳すと「お客様との関係をマネジメントすること」です。
CRMは、目先の収益だけを追い求めるのではなく、一人ひとりの顧客との取引関係の維持を重視します。顧客が企業にもたらす、生涯にわたる価値(LTV:ライフタイム・バリュー)の最大化を目的としているのです。
このように書くと難しく感じるかもしれませんが、要は「ひいき客、常連客との末長いお付き合い」をいかに実践するかを重視した経営手法なのです。昔はCRMという言葉を使うまでもなく、こうした商売は当たり前にできていたことです。鮮魚店や青果店、いわゆるパパママストアでは、顧客一人ひとりと顔見知りで、昨日何を食べたか、今日は何を薦めるか、といったことが自然に行われていました。それをチェーン化による集中購買・量販化の中で切り捨ててきたのです。

安易なCRM導入は効果薄値引き合戦になりやすい
CRMは日本でも90年代後半から流行を巻き起こしました。しかし、CRMには多くの誤解がつきまとっています。その一つが、「ポイントカードやクーポンを導入しさえすれば、CRMを実践できる」という考え方です。
ポイントカードやクーポンで、優良客を優遇するという考え方は、一見、理がありそうです。小売業は2割の優良顧客で8割の売り上げを稼ぐ「2:8」が理想とよく言われます。その2割の顧客を優遇するのは、納得できる話に思えます。 しかし、実際にはポイントカードなどを発行しただけで、単なる値引き合戦のツールになってしまっているケースが多いようです。利益を圧迫してしまった結果、最近ではやめてしまうところも出てきました。様々な調査で裏付けられていることですが、一般的にスーパーへの来店動機として最も多いのは「(家に)近いから」です。次いで「品揃え」が来るのが普通です。ポイントの付与による実質的な値引きは、顧客の来店動機の直接の決め手にはならないのです。
小売業のCRMはMDのためPOSに頼ると失敗する
それでは、小売業にとってCRMの本筋とは何でしょうか。CRMの目的は、顧客が店に愛着を持ってくれること、つまりストアロイヤリティを高めることです。しかし、ストアロイヤリティは価格面でのインセンティブに頼るのではなく、あくまでマーチャンダイジングや店員の顧客サービスで獲得するものだ、ということです。この連載で繰り返してきたことですが、欲しい商品がいつもあるスーパーが、顧客にとって最良のスーパーなのです。
しかし、スーパーは特定多数の消費者を相手にしています。多数の消費者の期待にこたえる品揃えを、限られた売り場で常に実現し続けることは、並大抵の努力ではできません。それでも、今のスーパーに求められているのは、正にそのことなのです。
記憶しきれないほど多数の来店者が満足する品揃えを実現するには、お客様のデータを可能な限り集め、分析できるITの助けが必要です。しかし、単純にPOSデータに基づくPI(PurchaseIndex:1000人当たりの購買点数)値だけを頼りに、マーチャンダイジングを進めるのは危険なことです。全体ではあまり売れていないけれど、優良顧客が来店時に必ず買う商品があったりするからです。単に売れていないからといって、その商品を切ってしまうと、優良顧客そのものを失う可能性があるのです。
こうした難しい問題に対処するには、顧客一人ひとりの購買データと、サービスカウンターに寄せられるクレームや要望を一括して管理する仕組みが必要です。この仕組みを作ることが、食品スーパーにとって本当のCRMです。
食品スーパーにおけるCRMの実践には、商圏の状況が大きく影響してきます。これが絶対的な正解、というものはありえません。例えば東京都は、区によって毎年1/4の居住者が入れ替わります。こうした地域では、顧客との長期的な関係がそもそも維持しにくく、顧客データを集めても短期間で古びてしまいます。また都市圏では、自分の名前を企業に知られることを快く思わない顧客層が多く存在します。
「アクション」を先に決め顧客情報の収集を始めるべき
大切なのはCRMによって何がしたいのか、つまり目的のアクションを先に決めることです。それによって、どんな顧客情報を集めるかが全く異なってきます。例えば、お客様の名前をお呼びしてあいさつをしたり、誕生日にプレゼントを渡す、といったアクションを起こしたいとします。こうした場合には名前や誕生日などの情報を取得する必要が出てきます。しかし、こうした計画がなければ、誕生日の取得は不要な項目です。
また、これもCRMにまつわる誤解ですが、CRMを実践する際にチェーン全店が足並みをそろえる必要はありません。地域ごと、店ごとに内容が変わってもいいですし、顧客データの集め方が店ごとに異なってもいいのです。むしろ地域性を無視するような画一性を求めると、本来のCRMの理念とかけ離れていきます。CRMはあくまで、個店の力を上げるためのツールです。個店ごとのカスタマイズと活用が可能な、柔軟なCRMの仕組みが今後は重要になってくるでしょう。

