
生産性を上げるIT活用術
|
|
IT活用で生き残れ現場発想システムが必要 第1回
| 第1回ポイント | |
| 1 | 顧客にとって、「欲しいものばかり売っている」品揃えを実現する理想のスーパーを目指すには、「客を知る」ことが不可欠。そのためにITは欠かせないツールである。 |
| 2 | IT活用は車の運転のようなもの。エンジンの仕組みを知るのではなく、ハンドルを切ると車がどう動くかを知ればよい。何ができるかを知ることが重要だ。 |
| 3 | 細分化する顧客のニーズを把握し、業務改善のためのシステムを作るには、もはや中央集権的な本部の力だけでは限界がある。今こそ、現場発想に基づく新しいシステムの提案が必要になる。 |
「行くと欲しいものばかり売っている」――。お客様にとっては、これが理想のスーパーです。裏返せば、ある特定の顧客層に対し、適切なマーチャンダイジングができている店ということになります。
スーパーのような特定多数の顧客を相手にする業態で、顧客の購買行動を正確につかむには、IT(情報技術)とそれを使いこなす力が不可欠です。本連載ではスーパーで動いている情報システムを、現場の人がどう活用していくかを考えます。第一回目の今回は、IT活用がなぜ必要かについて説明していきましょう。
「勘定系」と「情報系」に分類情報系ITの活用が重要に
スーパーの情報システムは、「勘定系」と「情報系」の二つに大きく分かれます(図1参照)。ここで言う「勘定系」は、POS(販売時点情報管理)システムや物流、受発注など、スーパーの基幹業務を支えるシステムです。
一方、「情報系」とはPOSデータを基にした売り上げ分析や、顧客管理と連動したCRM(注1)(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)、情報共有のためのナレッジマネジメント・システム(注2)など、様々な情報を駆使して、より良い品揃えや顧客サービスを目指すためのシステムです。

スーパーの現場では、この「情報系」の活用がより重要になります。様々な情報から、売り上げ向上やコスト削減の方策を科学的に考える。口で言うのは簡単で、実行は難しい問題です。しかし、IT活用が生産性を高めるカギであることは間違いありません。
ITを使いこなせる店長は、自分の店の「ポジション」をつかむのが上手です。POSデータやP/L(損益計算書)などの定量的な情報と、現場の観察や経験などの定性的な情報を突き合わせ、仮に目標から離れてしまっても対策を正しく立てられるからです。
IT活用を難しく考えることはありません。ITも道具の一つであり、いわば自動車の運転と同じです。エンジンの仕組みを知らなくても、車両感覚や車の挙動が分かれば十分なように、IT活用でここまではできる、という利用者の感覚を持つことが大切です。
「現場発想」の情報システムが生産性向上のカギとなる
現場がITへの理解を深めることは、スーパーという業態全体にとっても重要です。それは、これからの小売業の情報システムは、「顧客起点」「現場発想」で作られる必要があるからです。
現場での経験から言うと、かつての「2割のお客様が8割の売り上げを支える」という「2:8」の法則は崩れつつあります。今は「3:7」くらいでしょう。顧客の好みが、どんどん多様化しているからです。
この顧客層の細分化は、今後ますます進むはずです。当然、地域対応や個店対応がより重要になり、それには業務プロセス全体の見直しと、ITによるシステム化が欠かせません。
ところが、上の図2のような今のスーパーで利用されている情報システムは、機能の多くが本部に集中する「中央集権型IT」です。

これに対し、これからの時代に必要なのは、地域対応や個店対応に適し、現場である店鋪が売り上げ分析や販売計画を立てられるような「分散型IT」です。そして分散型ITは、本部の情報システム部だけではなく、顧客に最も近い現場から「我々が必要とするITはこうあるべきだ」と提案しなければ作れません。
本部の情報システム部門は、現行システムが停止しないように運用・保守する立場から、店や顧客にとって役立つと知ってはいても、現行システムに影響するような変更はしたくないのが本音です。これを納得させるには、新しいIT活用で売り上げがこれだけ伸びる、生産性が高まりコストがこれだけ下がる、というように、現場が情報システム部門とケンカできるくらいのITに関する知識が必要になります。
現場がITについて知識を深めることは、より効率的で儲かるチェーンストアを自分の力で作り上げるチャンスでもあるのです。
POS、物流、受発注“三種の神器“を見直す 第2回
| 第2回ポイント | |
| 1 | 特売の展開方法が複雑になるにつれ、POSシステムに大きな負荷がかかるようになる。販促部門や店舗が「本当に業務に必要な特売なのか」を考えることが、投資効果を高める上で不可欠になる。 |
| 2 | 物流面では産直品など店に直接配送される「店直」が増え、検収作業を繁雑にしている。現場から意見を出しながら伝票の標準化やオンライン化に取り組み、作業効率の改善を図る必要がある。 |
| 3 | 受発注システムは、伝票をやりとりするという視点だけではなく、いかに全体の発注精度の向上につながるか、という視点から構築することが望ましい。そのためには現場の作業手順や意見が必要になる。 |
今回は「POS」「物流」「受発注」というスーパーの根幹を支える三つのシステムについて、現場が積極的にシステム構築に参加していく必要性について解説します。普段は存在を意識せずに利用しているシステムですが、本来は現場の意見や視点から構築することが重要なものなのです。
本当に必要な特売なのかPOSへの負荷を見直す
現場から見れば、POSは動いて当たり前。なぜ現場がPOSに口を出す必要があるのか?と疑問に思われるかもしれません。その疑問に答えると、今のままだと、POSへの負荷がどんどん高まり、“破たん“をきたしかねないからです。
日本のスーパーでは、特売の処理がPOSの大きな負担になっています。月間お買い得品、会員限定商品などのほか、複数の特売条件が重なるときの優先順位など、特売のアルゴリズムはとても複雑です。そのため、POSの誤登録やPOPでの表示売価との食い違いといった、重要なミスの原因にもなります。
日本の一般的なスーパーでは、POSにかかる負荷は、特売処理と定番商品の処理で50対50にも達します。つまり、もし特売がなければ、POSの性能は半分で済むのです。スーパーの店舗システムにおいて、POSへの投資は半分以上を占めます。仮にチェーン全体のPOSレジを入れ替えれば、発注は1000台単位となり、10億円くらいかかります。
米ウォルマート・ストアーズ社など、EDLP(エブリディ・ロープライス)型の企業は、特売がないのでPOSの機能もシンプルで済みます。システム投資も低く抑えられ、ローコスト経営を図る上で見逃せない差となります。もちろん日本で特売をすべてなくすのはナンセンスですが、どの特売が本当に必要かという、現場視点・業務視点からの見直しは不可欠です。
また、本来はPOSの処理上、特売扱いにする必要がないのに、特売扱いで処理している商品も見受けられます。例えばギフトを特売扱いにしている場合が少なくありません。こうした場合は、例えば売価を下げて登録し、定番商品として扱うなど、現場とシステム部門が共同で、POSの負担を減らす工夫が必要です。

「店直」を例外にしない物流システムにも口を出すべき
入荷や品出し作業は、店舗の全作業のおよそ50%を占めています。ここ数年で、CDC(CentralDistributionCenter)などによる物流の集約化や、伝票処理のオンライン化が進み、店舗での検収作業の軽減や通路別配送など、作業の省力化が進んできました。
しかし、一方で“逆行“する動きもあります。CDCなどを通さず、店舗に直接届く「店直」が増えているのです。店直には地場の産直野菜などの産直物や、冷凍食品などが含まれます。この店直は、伝票の形式がバラバラだったり、作業手順が統一されていない場合が多かったりするのが実情です。
現在、店直はあくまで通常の物流業務の中でのイレギュラーな処理という位置付けです。しかし、個店対応への取り組みが重視されている現在、店直は増えこそすれ、減ることはないでしょう。例外扱いをやめ、店直への対応を含めた物流の最適化を図り、商品の伝票処理の見直しや、オンライン化による伝票レスの仕組みなどを考える必要があります。
このときに現場から提案できることは多いはずです。店直を検収する際のチェック項目を減らす、見やすい伝票の形式を作るなど、店舗がどのようにしたいか、という意見を取り入れるだけで、作業量が格段に変わってきます。
プロジェクトチームで発注精度の向上に取り組む
HT(ハンディターミナル)やGOT(グラフィックオーダーターミナル)で、画面上の棚割りや在庫数を見ながら発注数を入力するなど、店舗での発注作業にもITが入り込んできました。受発注のオンライン化も進んでいます。
しかし、受発注システムを作る上で本当に大切なのは、どれだけ安全・確実に発注データをやりとりできるか、ではありません。発注精度を高めて、チャンスロスと廃棄ロスの二つのロスを最小限にすることが重要なのです。それには受発注だけでなく、販売予測や在庫管理など、様々なシステムとの連携が必要になります。
既存の縦割りの組織では、情報システム部門は安全なシステムの構築にかかりきりで、全体の視点を忘れがちです。プロジェクトチームを結成するなど、横断的な組織で取り組む必要があります。そこで最も大切なのが、現場がどうしたいか、という意見です。
特に日本のスーパーで発注精度の高い受発注システムを作ろうとすると、避けて通れないのが生鮮品の扱いです。例えば丸魚から切り分けて刺身パックを作って販売したり、生鮮部門の材料で惣菜を作った場合など、販売する商品と発注商品が違うため、正確な在庫把握が難しいからです。
カスミの経験では、生鮮品についても諦めずに頑張れば発注精度を上げるシステムができる、という結果になりました。営業部門がプロジェクトの主導権を握り、店舗の意見を徹底して吸い上げるなど、現場主義の取り組みが成功のカギとなったのです。

(注1)カスタマー・リレーションシップ・マネジメントの略。顧客一人ひとりと長期的な取引関係を築き、各顧客が生涯にわたってもたらす利益(生涯価値)の最大化を目指す経営手法。
(注2)成功ノウハウや知恵を共有することで、企業全体の競争力を高める経営手法。「知識管理」「知識経営」と訳される。














