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適応型ソフトウエア開発 |
本書が提唱する「適応型ソフトウエア開発」は、最近ひとつのムーブメントを起しているアジャイル開発の一派である。
アジャイル開発は、人間重視や、メンバー間、開発者/ユーザ間の協調関係の重視などが特徴的であり、開発者の間では人気が高い。しかし、なぜ人間を重視するべきなのかなどを単なるヒューマニズムやプログラマの理屈ではなく、自然科学の原理にしたがって説明したのはおそらく本書が初めてだろう。われわれは、経験的に、どのように組織を運営すればその組織が活性化するか、またどんなことをすれば、創造性が損なわれ、みながうなだれて疲弊するのかをおよそのところは知っている。しかし、それを理解するための理論的根拠をもっているだろうか。本書は、極限プロジェクトの環境下で共通に作用する根本的な原理を説き明かすとともに、その原理を踏まえて、どのようにプロジェクトに対峙すべきかをメインのテーマとしている。この中で著者が拠り所としたのは、複雑系理論である。複雑系理論は、近年、生物の進化や生態系、市場経済、組織論など従来の古典的な科学では解明できずにいた領域に新たな理解を与えてきた。予測不可能な環境、変化とスピード、気まぐれな人間が入り乱れての開発現場はまさに複雑系以外のなにものでもない。複雑系を前提としたとき、プロジェクトを正しく導く駆動力の源泉は、個々のメンバーの豊かなコラボレーションが生み出す創発的適応性である。本書では、適応性を引き出すための実践方法が体系的に示されている。そしてそれらは、ありがちなプロジェクトマネージャ向けの精神論ではなく、あくまでも工学的見地からの現実解で貫かれている。
本書をプロジェクト実践の書として利用するのもひとつではあるが、先入主として定着してしまったプロジェクトマネジメントに対する常識、メンタルモデルをまったく別の視点から見つめなおすための書として座右に置かれることをお薦めする。プロジェクトの渦中にあり、視野狭窄に陥っているときにこそ、本書を反芻して少し遠目に現状を見直していただきたい。著者が語る全く新しいパラダイムは、見慣れた暗い風景を一変して、新たな道標を照らしてくれることだろう。
原題:Adaptive Software Development: A Collaborative Approach to Managing Complex Systems by James A. Highsmith III, Ken Orr.
