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アジャイルと規律
~ソフトウエア開発を成功させる2つの鍵のバランス~

著者: バリー・ベーム、リチャード・ターナー
監訳: ウルシステムズ 河野正幸、原幹
翻訳: 越智典子
日経BP社 2004年08月05日
価格:2,520円 (税込)
ISBN: 4822281922

ソフトウエア開発を成功させるためには「俊敏性(アジリティ)」と「規律(ディシプリン)」のバランスを取ってプロジェクトを実行することが必要です。このバランスが適切でないとプロジェクトは大きなリスクを抱えることになり、失敗する確率が高くなります。たとえば、ビジネスの変化が激しくそれに迅速に対応することが求められているソフトウエアに、計画の厳密な遵守や文書化や手続きを重視する官僚主義的な重量級の開発手法を適用する。逆に、生命や社会に対する影響度が非常に大きく高い信頼性が要求されているソフトウエアに、事前の綿密な計画や設計や文書化をなるべく省略するスピード重視の軽量級の開発手法を採用する。これらは「俊敏性」と「規律」のバランスが崩れているプロジェクトの典型例です。おそらく顧客の満足するソフトウエアを納期と予算を守って納品できる見込みは薄いでしょう。

しかし、この一見「あたりまえで簡単なこと」のようにも思える「バランスのとれた開発」も、現実の開発プロジェクトで実践するとなると、なかなか難しいことは皆さんよくご承知のとおりです。ソフトウエア開発プロジェクトは大量生産というよりは新製品開発に近いとよく言われます。顧客、対象業務、開発要員、規模、予算、納期などが全く同じ条件で実施できるものは二つとありませんし、前提としていた条件がプロジェクトの途中でころころと変わってしまうことも珍しくありません。開発チームの拠り所となる「開発手法」も世の中にはごまんと存在しており、しかも内容は千差万別で「商売っ気たっぷりの売り込み」も含んだ激しい覇権争いまで起こっている始末です。その結果、一般の利用者が適切に手法を評価して選択・導入することは非常に困難になっています。さらに、顧客や所属する組織が「標準開発手法」を定めている場合には、そのプロジェクトに本質的に合わないやり方だとわかっていても、無理やりそれに従って開発を進めざるを得ない場合もあります。そもそも「電気トースター用から宇宙ステーション用のソフトウエア」まで一つの開発手法でカバーすることはどだい無理な話にも関わらず、そういったことを強いられる場合もあります。

このように複雑で困難で時には理不尽なソフトウエア開発の現実の渦中で頭を悩ませているプロジェクトマネジャーやソフトウエアエンジニアにこそ本書はお勧めです。本書が提示する「色々な開発手法から『いいとこ取り』をして自分たちのプロジェクトに最も適したハイブリッドで独自な開発手法にカスタマイズして実行する」というコンセプトの現実性と有効性に納得させられ、周囲に惑わされることなく気軽にそれを実行する勇気が出てくること請け合いです。また、本書が丹念に解き明かしていく「方法論戦争」のもたらす混乱とその原因を理解してしまえば、マスメディアやコンサルタントやベンダーの「宣伝文句」に惑わされることなく、目の前のプロジェクトを成功に導くために本質的に必要なものが何かを常に自分でしっかりと考えて適切なバランスを維持しようという力が湧いてくることでしょう。

本書が紹介する「リスクをベースに俊敏性と規律のバランスをとる」というコンセプトは、現代のソフトウエア開発に携わる全ての方々にとって必須の「戦略思考フレームワーク」だといえます。事例を中心に説明されているので、具体的な理解も容易です。新しいプロジェクトに取り組む際やプロジェクトが行き詰った時にふと読み直して示唆を得たくなる、そんな良書です。

原題:Balancing Agility and Discipline : A Guide for the Perplexed

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